卵巣予備能検査「AMH」とは?
質のよい卵子を育てる3つのポイント
記事監修(学術部分のみ)岩橋晶子 医師
年齢を重ねるごとに卵巣機能は低下し、高齢出産には予期しないリスクも伴います。「子供がほしい」と思ったら、今の体の状態と向き合い、いつまで妊娠できるのかを知る勇気が必要です。
不妊治療のステップに必要な指標とされる卵巣予備能検査「AMH検査」と妊娠可能性の関係について解説します。
目次
AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは
AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは、発育途中の卵胞から分泌されるホルモンです。血液中のAMH濃度を調べるAMH検査によって、卵巣内に残っている卵子の数(卵巣予備能)を予測できます。
AMH値と卵胞の数は相関関係にあり、AMH値が高ければ、卵巣内の卵子数が多く、AMH値が低いほど、卵子数が少ないことを意味します。下記の表は、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)の国内多施設共同研究検討データによるAMHの新基準値です。
年齢(歳) | 例数 | 中央値(ng/mL) | 基準値範囲(ng/mL) |
---|---|---|---|
≦27 | 558 | 4.69 | 0.76 ~ 14.18 |
28 | 387 | 4.27 | 0.84 ~ 12.44 |
29 | 555 | 4.14 | 0.86 ~ 11.97 |
30 | 663 | 4.02 | 0.79 ~ 12.74 |
31 | 865 | 3.85 | 0.44 ~ 13.08 |
32 | 872 | 3.54 | 0.62 ~ 13.87 |
33 | 959 | 3.32 | 0.40 ~ 12.76 |
34 | 1064 | 3.14 | 0.38 ~ 11.16 |
35 | 1191 | 2.62 | 0.37 ~ 10.18 |
36 | 1122 | 2.50 | 0.33 ~ 9.93 |
37 | 1154 | 2.27 | 0.24 ~ 8.50 |
38 | 1230 | 1.90 | 0.11 ~ 7.81 |
39 | 1176 | 1.80 | 0.13 ~ 7.45 |
40 | 1057 | 1.47 | 0.08 ~ 6.13 |
41 | 888 | 1.30 | 0.06 ~ 5.52 |
42 | 715 | 1.00 | 0.05 ~ 5.81 |
43 | 509 | 0.72 | 0.03 ~ 4.49 |
44 | 309 | 0.66 | 0.03 ~ 3.98 |
45 | 144 | 0.41 | 0.03 ~ 3.43 |
46≦ | 127 | 0.30 | 0.02 ~ 1.67 |
全群 | 15545 | 2.36 | 0.12 ~ 10.67 |
参考文献:山本貴寛, ほか:日本生殖医学会雑誌 61(4):487,2016.
AMH値と妊娠可能性の関係
卵胞の数は、年齢とともに低下するため、AMH値も加齢とともに減少します。しかし、低AMH値だからといって、妊娠可能性が低下するわけではありません。
妊娠には、卵子の質が大きく影響しています。AMH値はあくまでも卵巣内の卵子数を予測するものであり、AMH値が低くても、残っている卵子の質が高ければ、妊娠の可能性は上がります。
質の良い卵子に欠かせないミトコンドリア
妊娠可能性を左右する質の良い卵子とは、どのような卵子でしょうか。
卵子を構成するのは、染色体の集合体である核と細胞質です。体内の細胞質には、通常約100から2000個のミトコンドリアが存在し、生きていくためのエネルギーを生産しています。
卵子の細胞質では、体内の細胞質に存在するミトコンドリアの約100倍以上、10万個が活発に活動しています。
生命活動に欠かせないエネルギーを生成するミトコンドリアも、加齢やストレスによる影響からは逃れられません。
ミトコンドリアを元気に保つ3つのポイント
健康な卵子には、体に必要な活動エネルギーを生成するミトコンドリアが不可欠です。
しかし、平穏な環境のもとでは、ミトコンドリアの活動は低下してしまいます。ミトコンドリアを増やすには、適度なストレスを感じる環境に身を置き、体に危機感を与えることがポイントです。
ミトコンドリアを活性化させるために心がけたい3つのポイントをご紹介します。
適度な運動
活発なミトコンドリアを維持するには、定期的な運動がおすすめです。
ミトコンドリアは、筋肉を収縮させて、体を動かすエネルギーを作り出しています。運動によって体に負荷がかかる状況を続けると、ミドコンドリアが運動環境に適応するため、体のエネルギー供給力や疲労耐性がアップします。
毎日の生活に、ランニングや早歩きのウォーキングなどの有酸素運動を取り入れてみましょう。
冷えない体づくり
ミトコンドリアの活性温度は37℃のため、低体温の状態が続くと十分に活性化しません。機能不全を避けるため、適正な体温を維持する機能を鍛えましょう。
日常の隙間時間を使ってこまめに体を動かしたり、入浴を習慣にしたりするのはおすすめの方法です。ときには、一定の温度に保たれている環境から外に出て、気温の変化を肌で感じることも必要です。寒暖による刺激は、ミトコンドリアの機能改善に役立ちます。
体の内外から冷え防止を心がけましょう。
バランスのよい食生活
バランスの取れた食事は、ミトコンドリアの活動を支える秘訣です。果物や緑黄色野菜、豆類など、バランスの良い食事を心がけましょう。
また、食べ過ぎによる満腹の状態が続くと、ミトコンドリアの活動が低減することに注意が必要です。空腹感によって体がストレスを感じる状態が、ミトコンドリアの活性をより促します。
まとめ
AMH検査では、妊娠の可能性を測ることはできません。妊娠には、質の良い卵子を育てることが大切です。適度な運動を継続して体温を上げ、食事の量に気をつけることが、卵細胞を構成するミトコンドリアの活性化につながります。
参考:
東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部「卵の数はどのくらい?? -AMHについて-」
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column_081.html
大阪大学理学研究科生物科学専攻 石原研究室「卵子のミトコンドリアのダイナミクス」
https://mitochondria.jp/introduction/oocyte
厚生労働省「ミトコンドリア | e-ヘルスネット」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-054.html