卵胞の質を低下させない生活習慣
記事監修(学術部分のみ)岩橋晶子 医師
卵胞とは卵子と周りの細胞を合わせたものの呼び名です。
周りの細胞は卵子を守り、栄養を供給するためのもので、卵子を成長させ排卵する、性ホルモンの分泌などの働きを持っています。
卵胞の質は妊娠成立にとって非常に重要です。
原始卵胞とは
卵巣の中に蓄えられている発達前の卵胞が原始卵胞です。
この中に卵子になるもとが入っています。私たちは生まれた時には既に一生分の原始卵胞を持っています。
この原始卵胞は、生まれてから月経のはじまる思春期頃には約170万〜180万個が自然消滅してしまいます。
さらに生理が始まる思春期や生殖適齢期には約20〜30万個まで減少、その後は1回の月経で約1000個の原始卵胞が減っていき、やがて枯渇して1000個以下になると閉経を迎えることになります。
原始卵胞が成長して、いわゆる「卵胞」と呼ばれる状態になります。
卵胞の育ち方と大きさ
では、卵胞はどうやって成長するのか具体的に見てみましょう。
元々体内に持って生まれていた原始卵胞が成長し始めると、数ヶ月かけて2〜5mmの胞状卵胞になります。通常月経時に確認できる卵胞がこれであり、この時点でようやくエコーで確認可能な大きさとなります。
胞状卵胞は一回の月経周期で複数個育ちますが、そのうち1個だけが14日ほどかけて20mm前後まで成長し、グラーフ卵胞となりその後に排卵します。
月経時に確認できる卵胞は、すでに数ヶ月以上前から徐々に成長してきたことがわかります。
1つの卵子が排卵されるまでに、たくさんの卵胞が途中で消失してしまうのです。
卵胞の数を調べる方法
残りの卵胞の数を調べる方法として、AMH(抗ミューラー管ホルモン)検査があります。
この検査は発育過程の卵胞から分泌されるホルモンを測定するものです。
AMHは卵巣の予備能、つまり「卵巣内にどれぐらい卵の数が残っているか」を反映するとされており、残りのおおよその卵の数がわかります。
月経周期に左右されないので卵巣機能を評価しやすいと言われている値で、加齢に伴って減っていきます。
ここで、年齢別のAMHの値を見てみましょう。27歳以下の中央値が4.69ng/mlであるのに比べ、この年齢以上からは「高齢出産」と定義されている35歳では2.62ng/mlとなっています。
■AMH検査の基準値
年齢(歳) | 例数 | 中央値(ng/mL) | 基準値範囲(ng/mL) |
---|---|---|---|
≦27 | 558 | 4.69 | 0.76 ~ 14.18 |
28 | 387 | 4.27 | 0.84 ~ 12.44 |
29 | 555 | 4.14 | 0.86 ~ 11.97 |
30 | 663 | 4.02 | 0.79 ~ 12.74 |
31 | 865 | 3.85 | 0.44 ~ 13.08 |
32 | 872 | 3.54 | 0.62 ~ 13.87 |
33 | 959 | 3.32 | 0.40 ~ 12.76 |
34 | 1064 | 3.14 | 0.38 ~ 11.16 |
35 | 1191 | 2.62 | 0.37 ~ 10.18 |
36 | 1122 | 2.50 | 0.33 ~ 9.93 |
37 | 1154 | 2.27 | 0.24 ~ 8.50 |
38 | 1230 | 1.90 | 0.11 ~ 7.81 |
39 | 1176 | 1.80 | 0.13 ~ 7.45 |
40 | 1057 | 1.47 | 0.08 ~ 6.13 |
41 | 888 | 1.30 | 0.06 ~ 5.52 |
42 | 715 | 1.00 | 0.05 ~ 5.81 |
43 | 509 | 0.72 | 0.03 ~ 4.49 |
44 | 309 | 0.66 | 0.03 ~ 3.98 |
45 | 144 | 0.41 | 0.03 ~ 3.43 |
46≦ | 127 | 0.30 | 0.02 ~ 1.67 |
全群 | 15545 | 2.36 | 0.12 ~ 10.67 |
参考文献:山本貴寛, ほか:日本生殖医学会雑誌 61(4):487,2016.
一般的にAMHの値は年齢と相関がありますが、若い人でもAMHが低いこともあります。
ここで注意したいのは、AMHはあくまで卵巣予備能を示す検査で、AMHが低いからといって妊娠の可能性が低いというわけではありません。
大切なのは卵胞の質
卵胞は一つ一つ異なり、同じ人であってもそれぞれの質は違います。
妊娠の成立には卵胞の質が良いことが欠かせません。卵胞の質が良い、とは「染色体異常がなく、正常に受精して成長する能力を持っている」ということです。
卵胞の質が低下する原因として、加齢とミトコンドリアの機能低下が挙げられます。
加齢によってミトコンドリアのDNAには変異が多くなり、その数自体も少なくなるといった報告があります。こういった現象に起因して加齢卵子では染色体異常が上昇し、妊娠率が低下してしまうのではないかといわれています。
ミトコンドリアの機能低下は、加齢に加えて食生活の乱れや喫煙、ストレスなどの酸化作用によって起こる可能性があります。
卵胞に含まれる卵子には、通常の細胞の約100倍ものミトコンドリアが存在しています。このミトコンドリアのエネルギーは卵子の成熟、受精などで大きな役割を演じていると言われています。
ミトコンドリアの質を向上することは、妊娠の成立にとって重要な可能性があります。
先ほど出てきたAMHは、あくまで残りの卵の数を予想するもので質とは関係がありません。
AMHが高くても質の良い卵だとは限りません。
卵の質がいいか、正常に発育するかは年齢とミトコンドリアの質にかかっている可能性があります。
参考:
鍼灸サロンlibera
https://libera89.com/
日本生殖医学学会
http://www.jsrm.or.jp/index.html
はらメディカルクリニック
https://www.haramedical.or.jp/column/staff/000808.html
東邦大学大森病院臨床検査室
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column_081.html