卵子の数には限りがあるから重要なのは質
記事監修(学術部分のみ)岩橋晶子 医師
卵子は元々体内に蓄えて産まれてくるもので、後から増えることはありません。
妊娠のためには、元々持っている卵子を良い状態にすることが大切です。
産まれた時点で卵子の数は決まっている
一般的に、女性は生まれた時点で100〜200万個の卵子のもとを持っています。
この卵子のもとは「原子卵胞」と呼ばれており、後から増えることはありません。
卵胞は毎月発育して排卵しますが、新たに卵子が発生するわけではないのです。
生まれてから月経のはじまる思春期頃には約170万〜180万個の原子卵胞が自然に消滅してしまいます。
さらに、生理が始まる思春期や生殖適齢期には約20〜30万個まで減少し、その後は1回の月経で約1000個の原始卵胞が減っていき、やがて枯渇して1000個以下になると閉経を迎えることになります。
卵子の寿命はどれくらい?
排卵された卵子の寿命は約24時間と言われています。
精子の寿命は女性の体内で約72時間と言われているため、精子と比べると非常に短時間です。
この間に卵管内で受精すると、成長しながら子宮へ移動して着床、妊娠成立へと続きます。受精出来なかった場合は、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちて月経が起こります。
卵子の残りを知ることができるAMH検査
AMHは、原始卵胞から発育する前胞状卵胞数を反映すると言われております。
その値は、卵巣内にどれぐらい卵の数が残っているか、つまり卵巣の予備能がどれほどかを反映すると考えられています。
年齢別のAMHの値を見てみましょう。27歳以下の中央値が4.69ng/mlであるのに比べ、この年齢以上からは「高齢出産」と定義されている35歳では2.62ng/mlとなっています。
■AMH検査の基準値
年齢(歳) | 例数 | 中央値(ng/mL) | 基準値範囲(ng/mL) |
---|---|---|---|
≦27 | 558 | 4.69 | 0.76 ~ 14.18 |
28 | 387 | 4.27 | 0.84 ~ 12.44 |
29 | 555 | 4.14 | 0.86 ~ 11.97 |
30 | 663 | 4.02 | 0.79 ~ 12.74 |
31 | 865 | 3.85 | 0.44 ~ 13.08 |
32 | 872 | 3.54 | 0.62 ~ 13.87 |
33 | 959 | 3.32 | 0.40 ~ 12.76 |
34 | 1064 | 3.14 | 0.38 ~ 11.16 |
35 | 1191 | 2.62 | 0.37 ~ 10.18 |
36 | 1122 | 2.50 | 0.33 ~ 9.93 |
37 | 1154 | 2.27 | 0.24 ~ 8.50 |
38 | 1230 | 1.90 | 0.11 ~ 7.81 |
39 | 1176 | 1.80 | 0.13 ~ 7.45 |
40 | 1057 | 1.47 | 0.08 ~ 6.13 |
41 | 888 | 1.30 | 0.06 ~ 5.52 |
42 | 715 | 1.00 | 0.05 ~ 5.81 |
43 | 509 | 0.72 | 0.03 ~ 4.49 |
44 | 309 | 0.66 | 0.03 ~ 3.98 |
45 | 144 | 0.41 | 0.03 ~ 3.43 |
46≦ | 127 | 0.30 | 0.02 ~ 1.67 |
全群 | 15545 | 2.36 | 0.12 ~ 10.67 |
参考文献:山本貴寛, ほか:日本生殖医学会雑誌 61(4):487,2016.
一般的にAMHの値は年齢と相関がありますが、若い人でもAMHが低いこともあります。
一方で、高値の場合は多嚢胞性卵巣症候群の可能性があります。排卵が起こらず卵巣にたくさんの卵胞が存在しているので高値となり、生理不順や不妊の原因になります。
ここで注意したいのは、AMHは卵巣予備能を示す検査で、AMHが低いからといって妊娠の可能性が低いというわけではありません。
卵子は質が大切
ところで、「卵子の質」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
排卵される卵子は一つ一つ状態が異なります。「質がいい」卵子とは、妊娠の成立に求められる条件である「染色体異常がなく、正常に受精して成長する能力を持っている」状態の卵子であることを指します。
具体的な状態で言うと、発生の過程で均一な大きさに分割し、将来の胎盤となる栄養外胚葉と呼ばれる部分の細胞数も多い卵子です。
卵子の質が低下する原因として、まず加齢が挙げられます。
さらに「卵子のエネルギー源であるミトコンドリアの機能低下と卵子の質の低下が関連している」という結果が報告されています。
加齢によってミトコンドリアの持っているエネルギーが減っていき、ミトコンドリア自体の染色体にも変異が起きやすくなるので妊娠率が低下してしまうのではないか、と言われているのです。
卵子には、通常の細胞の約100倍ものミトコンドリアが存在しています。このミトコンドリアのエネルギーは卵子の成熟、受精などで大きな役割を演じていると言われています。
このことから、ミトコンドリアの質を向上することも妊娠の成立には重要だとわかります。
ミトコンドリアの質の低下は、加齢に加えて食生活の乱れや喫煙、ストレスなどの酸化作用によって起こると言われています。
先ほど出てきたAMHも、あくまで残りの卵の数を予想するもので質とは関係がありません。AMHが高くても質の良い卵だとは限らないのです。
参考:
日本生殖医学学会
http://www.jsrm.or.jp/index.html
はらメディカルクリニック
https://www.haramedical.or.jp/column/staff/000808.html
東邦大学大森病院臨床検査室
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column_081.html